海上自衛隊「舞鶴基地」を訪れて
〇舞鶴基地
一昨年にJMCの視察で航空自衛隊「新潟分屯基地」を訪れ、海難事故や緊急輸送に
救急対応する部隊の活動や配備された航空機、ヘリコプターなどをつぶさに見学させ
ていただき、我々が通常は知り得ない任務の厳しくも誇るべきその内容を垣間見る機
会を得ました。然るに同基地と部隊の主な任務はあくまで救難救助や災害派遣にあり、
侵入者と戦うことではありませんでした。
今回、訪れた海上自衛隊「舞鶴基地」はまさに我が国、我が国民を護衛する為の日本
海側の最重要拠点であり、島根・山口県県境から秋田・青森県県境までという広大な
守備範囲を持つ日本海側最大の基地であります。旧帝国海軍・舞鶴鎮守府が開府して
以来軍港として利用されてきた舞鶴港にその拠点が置かれています。主力の第3護衛
隊群にはイージス艦「あたご」、「みょうこう」、ミサイル艦の「ふゆづき」、ヘリコプター搭
載護衛艦「ひゅうが」など最新鋭護衛艦が数多く配備されています。
舞鶴基地の艦船係留桟橋は直線状の岸壁で、名前は「北吸桟橋」と、"さんばし"で呼
ばれていますが、実際は頑強な岸壁で、護衛艦が一直線状に並んで係留されており、
この日は「ふゆづき」、「あたご」、「みょうこう」の3艦の雄姿を見ることができました。
このあと、桟橋向かいの丘の上にある「海軍記念館」を見学、玄関入口には軍艦旗を
背にした舞鶴鎮守府初代司令長官「東郷平八郎中将(当時)」の胸像が迎えてくれま
す。資料室には旧海軍の貴重な資料や記念品が展示されていますが、なかでも中央
の大講堂はさすがに誇り高い旧海軍の伝統と雰囲気が十分に嗅ぎ取れるような心持
ちがする部屋で、正面の舞台には軍艦の艦首旗(日章旗)と軍艦旗(旭日旗)が飾ら
れて、思わず挙手敬礼をしてしまいそうな幻想を抱く感じにふとなりました。表の庭園
の縁取りには砲弾を模した?ものが並べられて、あァ~なるほどな・・・と、妙に納得も
しました。
〇第23航空隊
次に海上自衛隊「舞鶴総監部」に所属する「第23航空隊」の航空基地に向かいまし
た。こちらには哨戒ヘリコプター「SH-60K」が12機配備されています。SH-60K
は新潟の「UH-60J」と異なり、救難救助ではなく主任務は「潜水艦」や「不審船」の
探索で、場合によっては武器使用もあり得ます。ソナーやソノブイを搭載、上部左右
にIHI社製の強力なエンジン2基(2,145軸馬力)を装着、右舷に国産の97式短魚
雷2基、左舷に米国製のAGM-114M空対艦ミサイル2基、この他、7.62mm
機関銃、浅海用対潜爆弾なども搭載できます。乗員は機長、副操縦士、後部にセン
サーマン2名の計4名が搭乗、24時間日本海を空から警戒・監視を行っています。
SH-60Kは海上自衛隊が旧モデルのSH-60Jを基にして、三菱重工業と防衛省
で独自に改造開発を行った高性能哨戒ヘリコプターで、これまで74機が納入された
とされます。1機の重量は約10ton, 価格は1機約70憶円、1回の警戒・監視飛行
で消費する燃料費は約100万円、航続距離は800km、ちなみに、イージス護衛艦
「あたご」の建造費は約1,500憶円だそうです。
〇ジャパン マリンユナイテッド(JMU)株式会社
この日は36度に達する猛暑日でしたが、その前日、同じような猛暑日に海上自衛
隊見学を前に、防衛省や海上保安庁に艦船を建造・納入している「ジャパン マリン
ユナイテッド(株)」の工場・施設見学をさせていただきました。場所は海上自衛隊
舞鶴基地の隣にあたります。同社は舞鶴海軍工廠を祖として、飯野重工業、日立
造船、日本鋼管造船部門等と合併・統合を経て日本海側唯一の大型造船所として
今日に至ります。残念ではありましたが、構内は一切写真撮影禁止ということで、
見学と説明で同社の歴史と数々の実績を頭に詰め込みました。ヘリコプタ―搭載
大型護衛艦、巡視船、タンカー等の商船、また南極砕氷観測船「しらせ」などよく
知られた艦船が建造されています。新造船の建造以外に艦船の修理、再塗装、
解撤、海洋・エンジニアリング事業など広く手掛けられております。
また、構内に「舞鶴館」と名付けられた資料館があります。舞鶴海軍工廠の建設
時に作られた、かなり古い建造で、工廠長室や関係部門の事務室などとして使わ
れ、現本館の完工を待ってその一部を移築して"記念館"として保存し、過去の歴
史的資料や写真、明治や昭和初期に建造された艦船の模型、海から引き揚げら
れた沈没船の陸揚品などが展示されています。それらの中で特に興味をもったも
のは旧日本海軍の軍艦で、謎の大爆発を起して瀬戸内海のごく浅い海に沈没し
た戦艦「陸奥」の陸揚品で、砲塔付近の鋼板と強力甲板の接合部分の一部です。
強度を持たせるため、分厚い鋼板を3枚重ねて鋲(リベット)ガシメで接合してあり
ます。戦艦「陸奥」は基準排水量39,000tonの巨艦でありますから建造に使われ
た鋲は130万個にのぼるということです。その後の兵器の破壊力の増大により、
鋼板を多少厚くしても被爆の被害はたいして変わらないことから、鋼板を薄くして
構造で強度を上げ、溶接技術の発達で、総重量を軽くしてその分、弾薬や火器の
積載重量を多くしたり、速力を増せるように設計を改良したのだそうです。他に工廠
長室に展示されているものとして東郷平八郎元帥の直筆とされる軸があり、あの有
名な「皇國興廃在此一戦 各員一層奮勵努力」と揮毫された書が東郷元帥の妹さん
とされる方から関係者を介して寄贈されたものだそうです。
〇グンゼ博物苑とエル・マールまいづる
舞鶴地区視察探訪の初日、即ち、自衛隊やJMU(株)を訪れる前に、綾部市にある
「グンゼ博物苑」と舞鶴の関西電力の関連施設である「エル・マールまいづる」を見学
しました。グンゼは肌着や靴下、女性のカラフルなストッキングなどの生産で有名です
が、糸や繊維製品だけでなくプラスティック事業、電子部品、医療器材など幅広い分野
に進出しています。「グンゼ」の由来は国是、社是、など国や会社の進むべき道を表す
「是」、創業者"波多野 鶴吉"氏の創業地"京都府何鹿郡(いかるが郡・現綾部市)の
「郡」を発展の指標として社名に託した「郡是製絲株式会社」からきているそうです。
機械設計との接点はあまり感じ取れませんでしたが、鶴吉氏の人生哲学「至誠」の信
念には共感できるところがあると思いました。次に訪れた「エル・マールまいづる」は関
西電力・舞鶴火力発電所近くの舞鶴親海公園内の岸壁に繋留されている大型船で、
関西電力のPR施設のひとつです。船内には各種の体験館やイギリスの豪華客船の
船長室、談話室などイメージルーム、中でも日本初の海上プラネタリウムがあり、富士
山の一年を通した四季の星空と雲や太陽の動きなどが壮大なパノラマ映像ですごい
迫力と音響で天井一面に映し出される360°の天界は見る者を圧倒する幻想的な世界
です。
今回の視察は例年にも増して有意義に感じました。 が、・・・とにかく暑い毎日で、3
日間を有効に廻るには気力、体力ともに十分に気を付けて保持し続けなければ後で
バテることに。舞鶴方面にまだ、行かれたことのない皆さん、是非いちど出かけてみて
はいかがでしょう。
北吸桟橋に碇泊中のミサイル護衛艦"ふゆづき"
イージス護衛艦"あたご"、 向こうは"みょうこう"
イージス護衛艦"みょうこう"後部甲板に旭日旗
艦対艦ミサイル(SSM)発射管が天空をにらむ
海軍記念館玄関の東郷平八郎元帥と軍艦旗
海軍記念館大講堂舞台の日の丸と軍艦旗
海軍記念館前庭の縁取りの砲弾?
右舷に短魚雷を装着した「SH-60K」
第23航空隊の「SH-60K」の強力なエンジン
「グンゼ」のストッキングのデモ展示
JMU「舞鶴館」の前で
エル・マールまいづるの前で