平成26年7月
近鉄エンジニアリング株式会社
武内弘光(JMC会長)
「ベトナムホーチミン」を尋ねて
平成26年7月18日から21日まで機械設計技術者クラブ(以下JMC)で主催
した「ベトナムホーチミン産学視察研修」は募集の結果10名以上の参加者が
集まり予定通り実施となった。関西空港発着にも関わらず東京や富山からも参
加いただき総勢16名での視察研修となった。
JMCでは過去に4度の海外視察研修を実施している。2004年3月韓国釜山
(九州地区主催)のほか2007年10月中国大連、2011年7月中国上海・杭州、
2012年7月は台湾台北・高雄と海外視察を実施している。
ベトナムは社会主義共和国で人口はおよそ9150万人、その63%が35歳以
下で若い世代が中心の人口構成である。宗教は仏教とカトリックが主であり公
用語はベトナム語。長年に渡りフランスの植民地として支配されていた。
また17年2ヶ月と言われる1975年2月に終結したベトナム戦争のダメージは
未だに大きく、工業の発達はタイやインドネシア、マレーシアと比べればかなり
遅れている。首都はハノイで南1800kmにホーチミンが位置する。
ホーチミンはベトナム最大の都市で人口900万人、関西空港からおよそ5時間
30分、日本からは成田、関西、中部、福岡から直行便が就航している。また
日本との時差はマイナス2時間である。
市内の道路は八割ほどがバイクで氾濫、台数は市の人口の約半分で450万台
と聞いた。そのバイクの7割がホンダ製、信頼がありブランドである。バイクは
日常最もポピュラーな移動手段で、一台に大人二名に子供一名までは乗車が
許されている。大人二人子供三人も見かけたが・・・。ちなみにガソリンは80円
~90円/リッター。
なぜバイクがここまで氾濫するのかと言えば交通インフラの整備が進んでいない
からである。市内には地下鉄や電車などの鉄道網が無いし路線バスも多いとは
言えない、また幹線道路は幅狭く整備も遅れている。道路整備は急務である為、
財源としてバイク所得には多くの税金を掛けている。
現状の道路事情で自家用車が増えれば大変な交通渋滞となる事が明らかで
自動車を増やさない対策を実施している。その政策とは自家用車購入にはとん
でもない税金を掛けており一般市民が購入できない様に規制している。
たまげた政策である。
また郊外には高級マンションの建設が盛んで900万円から、物価は日本の
1/5~1/8程度、給料はブルーワーカーで2万円未満、オフィースワーカー
で3万円、エンジニアで5万円/月程度なので購入にはかなりの高収入が
必要である。
電力事情は10年前に比べ大きく改善されており停電などのトラブルもここ数
年は回避されている。電力の殆どは火力発電で補われているが都市が発展
し工業比率が増えれば電力不足が深刻となる。ロシアの協力を得て建設予
定の原子力発電所の建設は一つの賭けでもある。
最初の訪問先はホーチミン技術師範大学、出迎えていただいたグエン教授
に引率され研究室や学生たちが集う自主研修室と工作機械実習場を案内し
ていただいた。そのあとの質疑応答にも丁寧に対応していただいた。
学生たちは土曜日にもかかわらず英語の集中授業や3Dでモデリングした
デモカーの試作など熱心に取り組んでいた。CADの授業もありPRO-E、
Inventor、CATIAなど3D設計ソフトを勉強しているようだ。工作機械実習
では3年生以上の学生がそれぞれのテーマを持って部品加工の習得に努
めていた。大学では18の学部が有り機械学部の学生が5,000人学んで
いる。
その内20%の学生が日本語勉強にも取り組んでおり、その5%(50名)
ほどが日本に来日(技術ビザ等)し活躍している。
学生たちにとって日本の企業は憧れで現地法人会社のパナソニック、富士
通、デンソーなどに就職できる事を目標としている。
国全体の平均年齢が27歳(日本は44歳)と若く活気に満ちた国である。
親日国家で学生たちも勉学に励み労働者も勤勉であると言われる。
次に訪問したのは株式会社アイデアテクノロジー、社長のチュン氏は42歳、
静岡で3年間機械設計を勉強し2006年にホーチミンで設計補助会社を立
ち上げ2010年に法人化。営業内容は機械設計補助が主体でお客様の
100%が日本の企業、現在53社を数える。日系の資本が入らないベトナム
の会社である。
社員数は現在43名、2DはAutocad。3DはSolidWorks、CATIA、I-Cad
などのソフトを活用しモデリング、アッセンブリーや部品図などのバラシを行っ
ている。
設計オフィスは5Sを徹底され大変清潔で整理整頓された職場であった。
また社員の方々も礼儀正しく我々が訪問した際も全員が起立され挨拶をして
いただいた。仕事の手を止める事にもなり恐縮であった。
設計データを扱う事からセキュリティーも厳しく管理され、取り扱ったデータの
消去はもちろん社員の方々も鞄や携帯はロッカーで保管し職場に持ち込まな
い、またコピー機も管理者しか扱えない等の対策をとっていた。
チュン社長の人柄も良いのでパフォーマンスを差し引いてもしっかりと管理さ
れているとの印象を持った。
設計データの品質は日本語も堪能なマネージャークラスが二名おり、チーム
で品質チェックと納期管理を実施されている。気になる単価は日本の1/3~5
である。
3Dソフトは取引先からの支給が多い、チュン社長の口からは内緒ですが・・・、
忙しく応援を掛けたいときはソフトをコピーして対応していますと。
社内の平均年齢は27歳、社員を増やすべく週に一人は面接、良ければ採用
している。但し退職率も高くより良い条件の会社へ移っていく風土がある様だ。
日本は少子高齢化が加速的に進み労働者が不足。機械設計者も例外ではなく
人材不足が深刻だ。
ベトナムでは設計会社は殆ど無く、アイデアテクノロジーは先駆者的存在で言
わばパイオニア。チュン社長の会社も益々拡大していく市場があり有望と認識
する。
彼らが経験を積めば圧倒的なコスト競争力により単純なバラシやモデリングな
どの設計補助的業務は日本の市場から流れていくのは明白。反動として我々
機械設計業界にも影響を与えるであろう。我々は付加価値の高い設計に取り
組み、若年設計者を育てるために必要な初歩的設計業務をいかに取り込むの
かが課題である。
ベトナムは社会主義の国で徴兵制度がある。男性は20歳から28歳までの
間に2年間義務を果たさねば成らない。但し猶予される条件があり先進的な
仕事に従事し納税を果たすことによって徴兵が免除される。その比率は都市部
では60%である
と聞いた。そのために学生は勉学にいそしみ、若い就業者もまじめに働くようで
ある。
今年3月にベトナムのサン国家主席が来日され大阪リーガロイヤルホテルで
講演があり私も参加することが出来た。ホーチミン近郊にロンドック工業団地を
開発、日本企業の誘致を積極的に行われている。現在は60%の国民が農業に
携わっているが2020年には工業立国を目指し70%の国民が工業に携わる事
ができるように期待を持っているとの事であった。
日本は中国や韓国との近隣諸国と歴史や領土問題により多くの課題を抱えて
いる。ベトナムとはその様な負の財産も少なく今後益々日本との関係が親密と
なり両国が発展していければと願う。
大学、企業訪問のあとは戦争記念館、統一会堂、戦火を免れたサイゴン大教
会を見学し、最終日にはメコン川クルーズも体験でき大変充実した視察旅行と
なった。
今回参加いただいた皆様お疲れ様でした。設計者あるいは経営者の視点で
様々な想いをお持ちになったのではと察し致します。その想いをレポートしJMC
へ投稿頂ければ幸いです。
最後に大学視察をお世話いただいた清水社長、旅程の取りまとめに奔走いた
だいた関西支部の天野さんにお礼を申し上げベトナムホーチミン報告レポートと
致します。