モータに思う
日本ホイスト㈱ 高橋宗介
みなさん、こどもの頃はどの様なことをされていましたか。
私も、男の子にもれず動くものに興味がありました。小学校ころは、通学路に山陽本線が
走っており、遮断機が降りて待っている目の前をD51やC62の蒸気機関車が通って行き
ました。力強くメカニカルな蒸気機関車に興味を惹かれ憧れでもありました。夏には、瀬
戸内の小島に、海水浴に連れて行ってもらいましたが、当時の連絡船は木造の船体に
2気筒の焼玉エンジン(セミディーゼルエンジン)が、通路から丸見えのエンジン室に備え
付けられていました。始動前にヘッド部分の玉をバーナで焼き、大きなフライホイールの
ついたクランク軸を手で所定の位置まで回し、圧搾空気をシリンダーに入れて(?)始動
する作業を興味深く眺めていた記憶があります。社会へ出てから、船舶に製品を設置す
る機会がありましたが、休憩時間にエンジンルームを見せてもらいました。
小学校で、磁石の勉強がありましたが、その延長で釘にコイルを巻いて電磁石になる
実験や、図のような直流のモータを作ったりしました。みなさんはいかがですか。
直流電磁石は極が固定なので、二つの電磁石を合わせれば、S極とN極は引きつけ合
います。反対に同極どうしでは反発します。
直流モータは、固定子(コイル)の極は変わらなく一定です。回転子(ロータ)の極も一定
であればロータは引きつけあった位置で安定し回転しません。そこで、安定位置になる
前に極を変えてやり、常時引きつける極に変えてやれば回転を続けます。図の電動機
では、極を変える部分が整流子とブラシです。ロータの回転にそって整流子が回転する
ので、コイルに通電する極が変わります。
「そうだ、そうだ、確かにモータが回る。原理がよくわかった」と当時納得したことを思い
出します。
社会へ出て製造業につきました。そこで商品に使っていたモータは、3相交流かご形
誘導電動機でした。構造はシンプルそのもので、ロータにはブラシなど何もありません。
だいいち、ロータにはコイルらしきものがない。なんで回るのだろう?? と疑問が
浮かんできました。疑問をもったまま数年経ちましたが、解ってみれば、なるほど「誘導」
電動機なのです。皆様はこんなこと知っておられるので疑問に思われなかったでしょう。
フレミングの右手と左手を組み合わせてみて、それと固定子(ステータ)の磁界が動く
ということを頭に描いて納得できました。
ところで、シンプルで堅牢な誘導電動機は、産業界で多く使用されています。機械装置
の駆動や、ポンプやファンの駆動、今では新幹線の駆動モータもそのようです。
電動機の性能を表すものに、出力、回転数(極数)、時間定格、電圧、電流、周波数、
保護方式・・・あります。電動機は、出力が大きな要素です。出力は仕事率(動力)で、
力と時間当たりの移動距離(回転数と回転力)の積ですが、定格出力は定格回転数
の時の値です。
定格出力と定格トルクの関係はシンプルで、T = 9549・kW/rpm (N・m)です。
ですが、定格回転数以外の加速中のトルクはどうでしょう。
このトルクには、癖があるのです。そうそう、車のエンジンのトルク特性はどうでしょう。
今ではカタログに表示しなくなりましたが、以前は、カタログに記載されていました。
エンジンでは、回転数がゼロのとき、停止時にはトルクも発生せずゼロです。エンジン
を始動して、アイドリングから最高回転数までのトルクの値は、図のように一定ではなく
回転数が増えるに従ってだんだん大きくなり、ある回転数を超えると下がってきます。
では、電動機はどうでしょうか。電動機の場合は、回転数がゼロの時でも大きなトルク
が出ています。それでは回転数が上がっていくとどう変化するでしょうか。電動機の種
類によって下図のように様々な特性が出せるようですが、汎用電動機は作り付け、そう
簡単に選べません。トルクの変化とともに始動電流も変化しますので注意して選択しな
ければなりません。
この誘導電動機は、社会で広く使用されています。国内での普及台数は約一億台で、
このすべての三相誘導電動機が消費する電力は、我が国における消費電力の55%
を占め、そのうち産業用は75%をもあるそうです。
この電動機の効率を上げれば、たいへん省エネになります。東北大震災で電力事情
が激変し、省エネに苦労してきました。それ以前も国際公約のCO2削減のため、国も
省エネ啓蒙をしていました。
この電動機の効率を上げることに関係した法律である「省エネ法」・トップランナー制度
が導入され、電動機の効率の高いモータ「トップランナーモータ」の判断基準の開始が
2015年4月より始まります。効率の高い電動機しか販売できなくなる法律です。
電動機の効率が上がれば、省エネできるので良いこと尽くめです。でも我々は喜んで
ばかりはおられません。電動機の効率を上げるためにその他の特性も変わってきます。
装置を設計する上で問題がないかしっかりとウオッチしておくことが重要と思っています。
経済産業省のHPに、これに関係した委員会の報告書及び、電動機について分かりや
すい資料が掲載されています。また、トップランナーモータの紹介は、(社)日本電機工
業会のHPに掲載されています。たまには気分転換に、電動機の世界を覗いて見るの
も良いかと思います。
経済産業省 三相誘導電動機の現状について:
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/shou_energy_kijun/sansou_yudou/pdf/002_04_02.pdf
日本電機工業会 トップランナーモータ :
http://www.jema-net.or.jp/Japanese/pis/top_runner/sansou_yudou.html
http://www.jema-net.or.jp/Japanese/pis/top_runner/pdf/flyer_motor.pdf
http://www.jema-net.or.jp/Japanese/pis/top_runner/pdf/toprunnermotor.pdf
最後に、私は電動機の専門家ではありませんので、間違ったことを言っているかも
しれません。上記のHPや各メーカの専門家にご確認下さい。